今回は諏訪湖の御神渡りについてです。

御神(おみ)渡りとは何か?

御神渡りとは以下の写真のような現象で、諏訪湖の水が氷り巨大な氷の筋が湖面を走る現象です。

御神渡りのメカニズム

御神渡り発生のメカニズムは以下のとおりです。
冬、気温が下がって諏訪湖が全面結氷し、-10℃以下の寒気が数日続くと氷の厚さが10㎝以上になります。
そこへ
昼夜の温度差で氷の膨張・収縮がくり返されると、湖の南岸から北岸にかけて轟音(ごうおん)とともに氷が割れ、高さ30㎝~60㎝くらいの氷の山脈ができます。この氷の山脈が出現する現象が今回のトピックです。

 

氷の筋の発生後、神社で御神渡り神事が行われる

氷の筋が発生し一定の条件が満たされると、御神渡りを観測している八剱(やつるぎ)神社(※「御神渡りの観測と八剱(やつるぎ)神社」にて詳細後述)で、神事が行われます。

神事が行われるには以下のような経過を辿る必要があります。

  1. 上記で説明した最初の御神渡り、「一の御渡り」が発生。
  2. 一の御渡りの数日後、同方向に二つ目の御神渡りである「二の御渡り」が出現。
  3. その後「佐久(佐久新海)の御渡り」ができる。
    ※佐久の御神渡りとは、東岸からできて、一の御渡りと二の御渡りに直交するもの

この3筋が出現すると八劔(やつるぎ)神社が「御渡り神事」(諏訪市無形民俗文化財)を行い、「御神渡り」と認定します。
なお、神が湖氷に降り立ったとされる諏訪湖の南側(上社側)のことを下座(くだりまし)と呼び、陸に上がった北側(下社側)のことを上座(あがりまし)と呼んでいます。

自然界の不思議

御神渡りは古くから『諏訪の七不思議』の一つとして数えられています。
伝説では上社の男神・建御名方神(タケミナカタノカミ)が下社の女神・八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)のもとへ通った道筋といわれています。通常1月から2月の厳冬期に出現し、気象条件によっては数日から数週間、湖畔からも確認することができます。

 

御神渡りの観測と八剱(やつるぎ)神社

前述の通り、御神渡りについては、長野県諏訪湖の東にある八剱(やつるぎ)神社で330年以上も前から毎年観測が続けられています。

残念ながら近年では、地球温暖化と暖冬の影響により全面結氷する日が減り、御神渡りの現れない『明けの海』も増えています。
今年2024年も諏訪湖には御神渡りはできず、直近では2018年(平成30年)2月5日に御神渡り拝観神事が行われました。

 

2024年の御神渡りの観測

今年2024年は1月6日に諏訪湖畔で御神渡り(おみわたり)観察が始まりましたが、残念ながら正式な御神渡りとはなりませんでした。
観測時は、諏訪市中心部にある八剱(やつるぎ)神社の宮司、総代が厳寒の朝6時半に集合し、湖面と水中の水温を測り、氷が張っていたらその状態をチェックしながら氷を割って厚さを測ります。

地味な作業ですが、この観測が今や世界の環境学者らの注目を集めているそうです。理由は観測期間にあります。観測開始がスタートしたのは1443(嘉吉3)年。以来、581年のデータが途切れることなく蓄積されてきました。
地球温暖化の推移をみるのに、これを超える観察データはほかにはないそうです。

 

温暖化により出現数が減少

1443年から昭和の末に当たる1986年までの534年間で御神渡りが出現しなかったのは欠落を含むと44回です。
以前は91.8%の確率で御神渡りが出現していたことがわかります。
たとえば明治、大正に御神渡りが出現しなかったのはそれぞれ2回。昭和に入っても、戦争が終わる昭和20年までに出現しなかったのは2回(昭和7年と12年)しかありません。

それが一転するのは1987(昭和62)年からです。4年連続で不出現が続き、1991(平成3)年に出現したあと、6年連続で不出現。1987年から2023(令和5)年までの37年で御神渡りが出現したのは9回しかありません。
出現確率は24.3%です。

昨年は国際環境NGO、グリーンピース・ジャパンの企画による、主に気候変動が原因で30年後には日本から失われてしまうかもしれない生物や文化に焦点を当てたアート展のテーマの一つとして、御神渡りに白羽の矢が立ち、約10分のショートフィルム作品もつくられたそうです。

 

おわりに

以上、今回は弊社伊藤建築事務所の位置する長野県松本市からもほど近い諏訪湖の自然現象、御神渡りについてでした。
温暖化の影響でこういった神聖な自然現象が減っているのは非常に残念なことです。
今後の御神渡り発生にも注目していきたいと思います。