新しい年になりました。
年の初めに初詣に出かけ、最近鳥居をくぐった方も多いのではないかと思います。
今回は、建築的な側面から見た鳥居、そして鳥居の歴史について見ていきましょう。

鳥居について

鳥居は、神社にとって神域と人間が住む俗界を区画するもの、つまり結界です。
神域への入口を示す一種の「門」の役割を果たしています。
したがって参拝する際は「鳥居をくぐる前に一礼。帰りの際も、鳥居をくぐってから振り向いて再び一礼」することが一つのマナーと言われています。お寺の場合も、山門をくぐるときも、同様です。

鳥居の由来について

鳥居の由来には諸説ありますが、「鶏の止まり木」を意味する「鶏居」であるという説が有力です。
これは「古事記」の「天岩戸伝承」で、天照大神(あまてらすおおみかみ)を天岩戸から誘い出すために鳴かせた「
常世の長鳴鳥」(鶏)にちなみ、『神前に鶏の止まり木を置いた』ことに始まるとする説です。

その他の説としては、人間の魂が鳥になって天国に旅立つ、その際の止まり木という説もあるようです。

 

鳥居の各部位の名称

鳥居の各部位の名称については以下のサイトの図が大変わかりやすいです。
【参考】「神社人」:https://jinjajin.jp/modules/contents/index.php?content_id=8

柱の一番下の土台石を「台石(だいいし)」と言い、その上部で補強されている部分を「根巻(ねまき)」または「藁座(わらざ)」と言います。対して、この台座が饅頭のように丸みを帯びたものを「亀腹(かめばら)」もしくは、見た目の名の通り「饅頭(まんじゅう)」と言います。

 

鳥居の形式

また、鳥居の形式は、大別すると、2種類の形式に分類されます。

形式1: 神明鳥居(しんめいとりい)

簡素な構造が特徴的で、貫が柱の外に飛び出しておらず、内側に収まっています。
最上部が「笠木(かさぎ)」一本で成り立っており、「島木(しまぎ)」はありません。

そして、一般的には直線・直角的なフォルムを採っており、笠木・貫・柱のいずれも円形のものを使用されることが多いです。
写真は以下のサイトのものがわかりやすいです。

【参考】「和遊創庵」:https://wayusoan.ajec.co.jp/2020/08/14/shape-torii/

基本的に神明鳥居が使われているのは、天照大神をお祀りしている神社です。(例:伊勢神宮や靖国神社など)

以前、弊社伊藤設計が手がけた四柱神社も、神明鳥居です。

※四柱神社のプロジェクトはこちらでご覧いただけます。伊勢神宮の式年遷宮の時に解体され、下賜された外宮の下幣殿です。
 【実績】四柱神社 招魂殿 (2015年8月竣工):https://x.gd/w9QHH

 

形式2: 明神鳥居(みょうじんとりい)

神社の約9割は明神系鳥居を構えています。
装飾的な構造で、最上部が笠木と島木から成る二層構造で構成されています。
また、「反り増し」という笠木の両端が反り上がった
流線的なフォルムを採ることが多く、中央に「額束(がくつか)」などの社名が示されていることがよくあります。
柱も裾拡がりな形をしています。

写真は以下のサイトのものがわかりやすいです。

【参考】「和遊創庵」:https://wayusoan.ajec.co.jp/2020/08/14/shape-torii/

 

鳥居の色と意味

鳥居の色

鳥居の素材は元々は白木だったため、鳥居の色も木材の素地でした。
しかし現在の鳥居は、石、鉄、コンクリートなど、様々です。

鳥居の色については、木材素地の劣化を防ぐ為、塗料が用いられるようになりました。

 

朱色の鳥居の意味

朱色を使うのは、仏教の考えから来ているもので本来の色ではありません。
本来の鳥居の色は白木を使った物で、白い色は神聖な色とされていました。

朱色の鳥居は、「神仏習合」(901-1868, 神道信仰と仏教信仰とを融合調和する動き)の時代に創設されて残っている物だろうと考えられます。朱色は魔除けの色という考え方も定着し、ますます朱色が使用されるようになりました。

白い鳥居の意味

白い鳥居は、昔から神社の鳥居の色として知られていました。「白木」で作られており、塗料が施されなかったためにこの色になっています。
白は神聖な意味を持ち、神の領域との境界線の役割をしています。

白い色にも、邪気を払う効果があります。こちらは神聖な白い色が邪気を寄せ付けないという意味と、清らかであることや浄化と言う意味も含んでいます。
神聖で霊性の高い「白」は神の色であり、自然界の突然変異で生まれるアルビノ(色素を持たない動物)を神の使いとして崇めていたという例からもその事実がうかがえます。

 

鳥居の力学について

災害時にも生き残る鳥居

1945年の広島の原爆や、2011年の東日本大震災の大津波被害の際にも、なぜか鳥居だけが無事だったというニュースが取り上げられ、海外でも不思議だと話題になりました。
運や神の御業という見方もあるかもしれませんが、これは、鳥居の土台の固定方法と力学的な視点からもうなずける結果です。

 

鳥居の土台と固定方法

鳥居の土台には、「沓石(くついし)」という大きな石があります。
実は、昔ながらの技法で立てられた鳥居はその「沓石」の穴に柱が差し込まれているだけのつくりになっています。


※柱はぴったりとはめ込まれており、鳥居の自重も大変重たいため、普段はグラグラするような状態でありません
※近年では立地や建築条件により、ボルト固定や鉄筋の真が通してある物など、様々な形態があります

沓石と鳥居の柱は「完璧に固定」はされていないため、地震の際には力を逃がすことができます。
すると鳥居本体に伝わる地震の揺れを軽減してくれます。
これは台風による強風など横からの強い力を受けても同じで、免震構造と同じ理論で揺れに耐えることができます。
強度については、X方向には強いですが Y方向にはやや弱いので 控え柱がついている鳥居も存在しています。

これぞ、先人たちの知恵から生み出された昔ながらの免震技法と言えるでしょう。

 

新しく作られる鳥居ではこのような知識がなく、安易にコンクリートでガチガチに固定されてしまうことがあります。すると小さな地震でも揺れが柱脚に伝わりその上部が完全倒壊してしまいます。


一見すると頑強そうに見える新しい固定法より、力を受け流す伝統的な固定法の方が、数百年の歴史を守れるのですね。

 

海の中にある厳島神社の鳥居

厳島神社の鳥居は固定されておらず、自然の重みで立っているだけというのは有名な話です。
脚を支えるために前後に支えがある両部鳥居という形式です。

潮の満ち引きにより、脚が海の中にあるときは水の浮力で倒れやすくなります。そのため島木と貫の間に重石が乗せてあります。
これで、重力で海水が上がってもどっしりと安定するそうです。

 

おわりに

鳥居の豆知識はまだまたありますが、耳で聞きかじるより神社に参拝するほうが鳥居の不思議を肌で感じられ、面白みが増すと思っています。今後も時間が許す限り、いろいろな神社を訪問してみたいと思います。