今回は、耐震改修における工事中の問題、
特に居住者目線での問題について、実際の現場ではどんな問題が起こりうるのかをシェアしていきます。

これまで伊藤建築設計事務所で請負った耐震改修の一例

  • 建物内部の壁の補強
  • 建物外部への補強材の設置、交換
  • 梁、柱の設置
  • トグル制震ブレーズの設置

 

耐震改修のリクエストの傾向

予算的な問題から、「建て替えは難しいので耐震改修を」となるケースが多いです。

耐震改修方法は数多くあるので、発注者様の要望を聞いて選定していきますが、

  • 室内を狭くしたくない
  • 外部の意匠を損ねたくない
  • 居ながら改修を行いたい

など、さまざまなタイプのリクエストがあります。
その中でも、
「(居住者の方が) 建物の中に居ながら、改修作業を行なってほしい。改修作業中も建物の中にいたい」
という希望は、ほとんどの方が持たれます。
やはり工事中に移動する場所を確保するのは大変ですし、仮にそういう場所があったとしても、移動場所の改修費・移転費など多くの費用がプラスアルファでかかってしまうためです。

 

低騒音工法の実際

先に触れた要望が多いこともあり、全ての耐震改修工法は、
「(居住者の方が)建物の中に居ながら、改修作業ができます」「低騒音工法です」と、うたわれています。
ただ一言に低騒音工法だと言っても、メーカーや監理者レベルでは、居住者目線でのを感じ方をうまくとらえられていないことが多いにあります。

それなりの騒音が出てしまうことは工事開始前に分かっていますので、事前説明をさせていただいていますが、
実際に工事が始まると、予想より酷かったという理由で、施工者である私たちが全ての工法で呼び出され、対応を行うことも起こります。

実際の騒音や振動を確認する際、施工の技術者レベルでは、そこまでの問題ではないと判断されるケースでも、居住者の目線で言えば、1日中その騒音・振動にさらされているわけですから(一方技術者は30分のような短い時間だけその場に行って確認をし、その後帰ってしまうのが普通ですから)、一般的に予想されるより実際はデリケートな問題です。

 

改修中の騒音問題の解決法

工期に余裕があれば、特に騒音が想定される、はつり・アンカー工事などを就業時間後や休日工事とすることも出来ますが、そうすると今度は周辺住民の迷惑になってしまうなど、検討項目は数多くあり難しいところです。

この記事を書いている著者としては、可能な限り、耐震改修中は居住者に移動して、離れて頂くのが一番と考えています。
それでもどうしても中に居たいと言わた場合は、外部施工のみの場合であっても、内部に仮設間仕切りを設置する必要があると思います。
少し大げさな例ですが、高速道路で使われている遮音材を採用するのも一つの手ではあります。とにかく遮音計画をしっかりする必要があると思っています。

 

その他の問題①:ほこり

騒音、振動以外にも問題はあります。
たとえば、建物内部の改修を伴う場合は、事前に対策をしないとかなりの量のほこりが居住スペースに流れ出てしまい、問題になることがあります。

ほこりを出にくくするための対策としてはガムテープなどで、必要箇所を隅々まで止めるなどの方法があります。

ほこりの問題を特に気を付けなけらばならないケースは、
建物が古い場合で、その建物が病院・高齢者施設・幼児施設などである場合です。
建物の利用者さんが、免疫力が落ちている人であったり、0歳であるなどまだ十分な免疫を獲得していない人の場合は特に危険で、
例えば天井裏などに蓄積したアスペルギルス菌による肺炎は大きな問題となることもあります。
これは事前に発注者様と十分な打合せをする必要があるケースです。

 

その他の問題②:異臭

改修工事中の異臭が気になられ、居住者様の問題になることもあります。
これは塗装や接着剤など、また設備配管の塗装が原因となり得るでしょう。
気が付きにくい落とし穴としては、外部で使っている発電機などの排気が、風向きによってガラリ(※1) から侵入するというケースも、稀ながら起こりえます。

※1:ガラリとは、壁やドアなどに設けられた通気口のこと。外から中が見えることなく換気ができるようになっています。

 

おまけ:最近の耐震構造について

最後に、最近の耐震構造についての補足情報です。

特に公共施設の新営建物など、重要施設には、ほぼ全てに免震構造や制震構造などが採用されています。
ただ、このような構造でも完全に被害を防げるものということではないので注意が必要です。
特に問題となるのが、突き上げの衝撃、縦揺れに対してです。
この場合は、普通の建物の時と同じで有効ではありません。

多くの方は、耐震構造であればどんな地震にも耐えうると信じているケースが多いですから、事前に理解をしておいていただく必要があります。

また、大きな横揺れが来た場合、渡り廊下や建物外部の犬走り(※2)が最大50cmほど動いてずれることも想定されます。
※2:犬走りとは建物の外壁周りに設けられた通路を指します。

 

地震の瞬間その上に人がいれば、その人は足を大怪我するリスクもあります。
そういったリスクも踏まえて、建物の基本設計の段階からすでに十分に考慮、検討をしていく必要があります。